J2第13節 札幌対栃木 札幌ドーム16:00

5月5日、こどもの日。
札幌市羊ヶ丘(ひつじがおか)は札幌ドームへ、一人でコンサドーレ札幌栃木SC戦を観に行ってきました。
試合開始と同時刻くらいに到着したので、急いでB自由席当日券(2,200円)てのを買って、ゴール裏のサポーターたちの歌が響き渡るスタジアム内へと足を運びました。
時間はまだ開始2分足らず。一人だったので、席を見つけるのは容易かったのですが、ゴールデンウィークという事もあり、ホーム側のゴール裏席は子連れの客も多く、中々の盛況ぶり。クラブの公式サイトで、入場者数15,696人と出ていたけど、調べてみたら、今季札幌ドームでの15,000人越えは開幕戦のベガルタ仙台戦(21,908人)以来。入場料収入はクラブ収入源の大事な柱の一つなので、札幌には是非、こういう日に良いゲームをして(そして出来ればゴールを決めて勝って)、「またスタジアムで試合を観たいな」と思う人が増えていけば良いと思います。
何と言っても、フットボール最大の喜びである“ゴール”*1を初観戦の時に味わえるか否かというのは、その後、その人がリピーターとなりスタジアムに来てくれるか来てくれないかを直接左右するくらい、大きな要因だと思います。


普段着で、お一人で観戦されていた品の良さそうなおじ様の隣りに座らせてもらい、すぐに試合に集中。サッと電光掲示板に目を走らせて今日のスタメンを確認する。確かMFのダニルソンが出場停止・・・あっ、U20日本代表候補の宮澤裕樹(11番)が先発で出ている。周りの席に目をやると、11番の赤黒ユニュフォーム着ている人も何人かいた。そういえば、今の札幌を象徴する、一番人気のある選手って誰なんだろう。大黒柱のクライトン曽田雄志はケガで長期離脱中だし・・・。まあ、“チーム全員”っていうキレイな答えもあるよな。


試合はホーム札幌がボールを支配しながらも、こう着状態のまま前半を終え、静かにハーフタイムを迎える。とは言え、ホーム側のB自由席に陣取って試合を観ている為、0−0の試合でも45分通してかなりの熱気に包まれている。立見席ゾーン(俗に熱烈サポーターゾーンと呼ばれている、椅子自体無いエリア一帯)はすぐ隣だし、応援歌の野太い声や太鼓の音がすぐ傍から聞こえる。自然と周囲にいる人間も興奮してくるのか、(はたまたそれを潜在的に求める人種がこの付近にいるのか)手拍子や掛け声も彼らに釣られてあちこちから聞こえる。うん、やっぱりいいな、こういうの。今後もホーム側に陣取ろう。この辺りはフラッグが試合観戦の邪魔になることもないし、気持ちよいテンションで試合が観られる。しかも、世界のフットボールに付き物と言える、暴力のキナ臭い感じなど、全くと言っていいほどしないのだ。大げさなことかもしれないが、正直、日本って国は素晴らしいと思う。この“家族揃って安心してフットボールの応援ができる環境”が当たり前のように、実際にあるのだから。歴史がないから当たり前と言えば当たり前だけど。(そう言えば最近はJ1であまり良くない話も聞こえるけど)


ハーフタイム中、煙草を吸おうと喫煙所を探していたら、馴染みのあった屋内の喫煙所がどうにも見つけられない。どうしたことかと思って歩き回っていると、スタジアムへの出入り口の一つに、「喫煙所」の文字が。「ん?外にあるってことか」と、それに従い出てみると、あった、あった。ありました。入場時は出入り口の一つだったところを一部柵で囲って、屋外に“暫定喫煙ゾーン”を設えたわけですね。煙は外に吐き出されるし、ナイスアイディア(なのか?)。写真でもアップしたら良かったですね、失敗失敗。
僕が喫煙所に着いた時、既に20人近くが煙草に火をつけ、煙をくゆらせていた。僕以外、その場にいた、ほとんどの人が揃いも揃って赤黒のユニフォーム姿ばかり。しかも漂うオーラから、かなり年季の入ったサポーター達だ、と察する。マフラーの巻き方や煙草を吸う時の佇まい(胸を張ってビシッとしてる)、表情や目つき(ココが最も違う)が鋭くて、中には「あんた、カタギじゃないしょ」てのもいる(笑)
そして自分が煙草をふかしていると、喫煙所には次々と赤黒の集団が押し寄せ、辺りから一斉に「カチカチ」というライターの合唱が木霊する。「さながら喫煙者たちのチャントだな、こりゃ」と思い、苦笑した。


そして怒涛の後半。一気に試合が動き出す。
前半は、打てども打てどもシュートが枠に飛ばなかった札幌。クライトンが一度シュートをポストに当てたけど、これも枠外と言えば枠外。「こういう試合に限ってワンチャンスで先制点をかっさらわれるんだよな」とずうっと気にしていたんですが・・・予感的中してしまいました。しかも、防ごうと思えば防げた失点。「やられた」とか、「相手を褒めるしかない」とかいう失点じゃない。
しかも立て続け。
0−1 61分 20河原和寿
0−2 66分 14稲葉久人

実を言うと、僕は目の前で札幌の負けというのを目にしたことが、一度もなかった。何とも幸運なことに、観に行った試合はすべて勝つか、引き分け(むかーしナビスコカップジュビロ磐田と厚別でやった時も奇跡的なスコアレスドローだった)。とは言っても観戦数が多いわけじゃないから、「俺こそが勝利のタリスマンだ」なんて馬鹿なことは考えてやしないけど、何となく、俺が観にきてる日は勝って欲しい気持ちがある。まるで、占いの言葉に現実を擦り合わせて一喜一憂して楽しむ乙女のようで、我ながら女々しいと感じるが、相性が良いものはそれはそれで、そのまま続いて欲しい。素直な気持ちだ。
さて、0−2である。海外サッカーを始め、多くの試合を観てきている自負もある僕だが、この時の僕の頭に、「サッカーにおいて2点差というリードほど危ういものはない(つまり、まだひっくり返すことは十分できる)」なんて考えは微塵も浮かんではこなかった。「ああ・・・」という言葉にならない言葉を呟き、“惨敗”の2文字が浮かぶ。周りもまた、同様に静まり返っている。失点があまりに呆気ない形で、しかもそれが立て続けだっただけに、舌打ちや、「うわ・・ヒド・・」という呟きが、そして何よりも失望感が空気を伝って広がっている。しかもこれは札幌の失点の王道パターンだ。

しかし、しかしとにかく、まずは1点返してくれ。1点を獲ってくれ。ありえない形での2失点は悔しいし、情けないけど、やり方次第では防げた2失点だった。つまり相手が素晴らしすぎたから2失点したんじゃない。しかもチャンスは札幌の方が実際多く作っている。頼む。やってくれ。祈るような気持ちで試合を見守った。


8分後だった。右サイドスローインからの展開。最後に11番の宮澤が至近距離から左足で振り抜いた。栃木の長髪のゴールキーパーの束ねた髪がスローモーションで揺れていた。ボールはゴールに突き刺さる。
「オオッしゃああああああ!!」
1−2 74分 11宮澤裕樹

気づいたら栃木のキックオフで試合は再開していた。その間全く覚えていない。宮澤はボールをセンターまで走って持っていっただろうか?それとも他の誰かが?全く記憶がない。それほど、久々に味わった目の前でのゴールの感覚は我を忘れさせた。
返した。1点返してくれた。これで一気に流れは変わる。俄然、スタジアム内の空気が活気を取り戻す。そして2度目の歓喜はすぐ訪れた。
2−2 83分 26上原慎也

高い打点でのヘディングが印象的なゴールだった。何てこった。同点。同点だ。宮澤も上原も今季初ゴール。上原に至ってはプロ初ゴール。それが同点弾。もう勢いは完全に札幌だ。こういう展開になると、追いつかれた方は逆転されることを恐れるあまり、逆転されるというイメージしか浮かばなくなる。栃木に限ったことじゃない。追われて追われて、追いつかれた者の心理状態だ。その5分後。

3−2 88分 10クライトン
爪先か足の甲に、薄く当ててねじ込んだゴールだった。最初、俺はギリギリで外れたと思った。そしたらネットの中にボールが転がっていた。入っている。もう、ゴール裏は大騒ぎだった。いや、スタジアム中だろう。同点に次ぐ、逆転。スポーツ観戦において最もシンプルで最も興奮するシナリオ。今日の試合の結末にこんな大逆転の筋書きがあろうとは。


札幌はこのまま1点のリードを守りきり、見事リーグ戦勝ち点3を積み上げた。しかもリーグ戦ホーム3連勝。勝ち点は21に伸び、8位から7位へと浮上*2
サポーター達の勝利の歌を聴きながら、少し余韻に浸った後、スタジアムを出た。一人での観戦もいいもんだ。何が起こるかと注意深くアンテナを張っていたからだろうか。スタジアムの雰囲気もビンビンに感じられた。ゲームも集中して観ることができたし、凄く充実していた。勝ち試合だから尚更だ。

そういえば、僕のささやかな“観戦不敗記録”もまた伸びることとなった(笑)。できることなら、とことん伸びてほしいものだ。その時は満を持して“札幌のタリスマン”を名乗ってやる。俺が観に行くと札幌は負けないんだぞ、と。


ふと、鼻に飛び込んできた僅かな香りに、顔をしかめて自分の服を嗅いでみた。どうやら、酒臭い、ゴール裏の空気がまだ服に染み付いていたようだった。

*1:当然ながら、個人的な解釈です。

*2:後で確認したら、同勝ち点の徳島ヴォルティスに得失点差で及ばず、順位の変動はありませんでした